対象読者:CFO
株式市場が経営に求めている点は、第一義的には、資本コストを上回る価値を創造することであるが、実際には、それ以上になぜそれが可能なのか、どの事業で生まれているのか、そしてそれがどの程度持続的なのかを、第三者が理解できる形で説明できているかという点が企業価値の評価のキーとなっている。
実際に価値を創造していても、それが説明可能な構造に落とし込まれていなければ、市場では評価されない。
問題は実態以上に、構造の言語化不足にある。
経営は、価値創造の「根拠(なぜ)」「源泉(どの事業)」「持続性(どの程度)」を、第三者が検証できる形に言語化しない限り、市場から正当に評価されない。
1. 株式市場が見ているのは「努力」ではなく「資本効率」である
まず前提として押さえておくべきことがある。
株式市場は、経営の努力や熱量を直接評価しない。
市場が一貫して見ているのは、次の点である。
- ROIC、ROE、加えて、TSR
- 資本収益性が資本コスト(WACC)を上回っているか
- それが一時的ではなく、持続的か
市場にとって重要なのは、「どれだけ頑張っているか」ではなく、
投下した資本に対して、どれだけのリターンを生んでいるかである。
この評価軸は、すでに世界的に共有されている。
2. 問われているのは「超えているか」ではなく「説明できるか」
多くの経営陣は、次のように感じている。
- ROICは実際に資本コストを上回っている
- 将来の価値創造につながる成長投資や研究開発を実施している
- 短期の数値・結果だけで評価されるのは不本意だ
しかし、株式市場や投資家が着目しているのは別の点である。
その主張は、構造・仕組みで説明されているか。
具体的には、次の問いに答えられているかが問われている。
- どの事業が、どの程度資本コストを上回っているのか
- その収益性は、何に支えられているのか
(競争優位、規模、技術、規制、顧客ロックイン等収益の源泉) - 外部環境が変わっても維持できる理由は何か
仮に、これらが整理されて説明されていなければ、
「超えている」という主張は、市場では検証不能な、単なる主観として扱われる。
3. 将来価値が評価されにくい本当の理由
成長投資、研究開発、M&Aの価値が評価されにくい理由を、
市場の短期志向だけに求めるのは正確ではない。
多くの場合、次の点が曖昧なままになっている。
- 事業別ROICが定義されていない
- 投下資本の定義・範囲が事業ごとに一貫していない
- 現在の投資や改革が、いつ・どう利益や現金に変わるのか示されていない
その結果、市場からは次のように見える。
「価値を生む可能性は否定しないが、それが資本コストを上回るかは判断できない。」
これは否定ではなく、判断材料が不足しているだけである。
4. 説明できない価値創造は、反論への耐性を持たない
価値創造の仕組みを説明できない状態は、
単に評価されないだけでは終わらない。
次のようなリスクを内包する。
| リスク項目 | 影響 |
|---|---|
| PBR低迷 | 「構造問題」に対応できないと見なされる |
| ポートフォリオ | 事業の組み合わせ、選択の合理性が疑われる |
| 資本政策 | (低収益事業や資産へ資本配賦されることで) 配当、自社株買い、投資の選択の自由度が失われる |
| アクティビスト対応 | 経営者の反論・主張の説得力が弱くなる |
特に注意すべきなのは、
反論が「将来のため」「長期視点」といった意志表明に寄ってしまうことである。
この状態では、議論は検証不能な意思表明に変質し、第三者を納得させることはできない。
5. 本質的な問い:価値創造の前提は、どこまで共有されているか
経営が明確にすべきことは、以下の4点である
対象となる事業
投下する資本
期待するリターン
実現を支える前提条件
この前提が言語化され、市場と共有されていない限り、
価値創造は存在しないのと同じ扱いを受ける。
まとめ
資本コストを上回る価値創造とは、単なる業績の問題ではなく、説明構造の問題である。
実態があるかどうかではなく、第三者が理解し、検証できる形に置き直されているかが評価を分ける。
この構造を整えない限り、以下の点は、いずれも後手に回り続ける。
- PBRの是正
- 資本政策の自由度
- アクティビストへの耐性
注記(免責)
本稿は、特定の企業・案件を評価・批判するものではありません。
株式市場と経営のあいだで生じやすい、構造的論点を整理したものです。