読手対象:CEO、IR担当役員

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なぜ、経営の意思決定は、投資家に正しく伝わらないのか

結論

海外機関投資家との対話が噛み合わない原因は、英語力や説明技法ではなく、経営判断の前提が共有されていない点にある。

投資家は説明内容よりも、制約条件、代替案比較、優先順位といった判断の構造を見ている。

強みが評価されないのも、その強みがどの比較軸で意思決定に結びつくかが言語化されていないためであり、前提を共有して初めて建設的対話が成立する。

したがって、対話の改善策は「英語」ではなく、制約・代替案・優先順位を含む経営判断の前提を、投資家が検証できる構造として言語化し共有することである。

海外機関投資家との対話において、
「説明はしているはずだが、納得感が返ってこない」
と感じる場面はありませんか?

この違和感は、英語力や説明技法の問題ではありません。
多くの場合、経営側が当然のものとして置いている“判断の前提”が、投資家と共有されていないことに原因があります。

本稿では、海外機関投資家との対話で生じやすいこのズレを、経営判断の構造という観点から整理します。


1. 投資家が見ているのは「説明」ではなく「判断の構造」

海外機関投資家は、企業説明の場で事業内容そのものを理解しようとしているだけではありません。

彼らが確認しているのは、

  • 経営陣は、どの制約条件を前提に意思決定しているのか
  • 複数の選択肢をどう比較し、何を優先したのか
  • その判断は、他社と比べてどこに位置づけられるのか

という、判断の枠組みそのものです。

一方、企業側は、

  • 事業の歴史
  • 技術や人材の優位性
  • 長期的な安定性

を丁寧に説明しようとしがちです。

ここに、
語っている内容と、見られている論点のズレ
が生じます。


2. 強みが伝わらない本当の理由

海外機関投資家との対話で、
「自社の強みを説明しているのに評価されない」
と感じることがあります。

しかしその多くは、強みの中身が弱いのではありません。

問題は、

  • その強みがどの比較軸の上で意味を持つのか
  • その強みが経営判断にどう結びついているのか

という前提が、十分に整理されていない点にあります。

投資家が知りたいのは、強みそのものよりも、

強みと、その結果としての経営判断の関係性を説明できる

明確なロジックを、経営が持っているかどうか


3. 「理解されない」のではなく「前提が共有されていない」

対話が噛み合わないとき、
企業側では「投資家が当社を理解していない」と感じがちです。

しかし実際には、

投資家の前提 企業側の前提
資本効率・比較・リスク調整 歴史・現場感・長期観

という、前提の不一致が起きています。

これは、どちらが正しいかの問題ではありません。
同じ論点を、異なる前提から見ているだけです。


4. 経営判断の前提が曖昧なままでは、対話は深まらない

海外機関投資家との対話において、本質的に問われているのは「説明の巧さ」ではなく、経営判断の前提がどこまで言語化されているかです。

例えば、次の問いに即答できるでしょうか。

  • (CEO個人、経営会議、取締役会のうち、責任の所在はどこか?)
    誰が最終的な判断主体なのか
  • 他の合理的な代替案(売却・縮小・分社化・投資見送り等)の
    どの選択肢と比較した結果、現在の方針を選んだのか
  • (成長、ROIC、安定性、支配権、雇用などのトレードオフのKPIのうち)
    何を重視し、何をあえて犠牲にしているのか

これらが社内で整理されていない場合、
対話は事実説明に終始し、企業の独自性や戦略の必然性は伝わりません。


5. 対話を前に進めるために必要なこと

海外機関投資家との対話を建設的なものにするために必要なのは、
説明資料の工夫ではありません。

まず必要なのは、

投資家が前提としている思考ロジックを理解したうえで

自社の判断前提を、そのロジックに照らして整理すること

これは迎合ではなく、経営の意思決定を、第三者が理解できる構造に置き直す作業です。


おわりに

海外機関投資家との対話がうまく進んだ場面で、投資家から

“We are on the same page.”

という言葉が出てくることがあります。
それは、判断の前提、論点の認識が共有されたというサインです

その状態に到達して初めて、対話は次の段階に進みます。


※注記(免責)

本稿は、特定の企業や案件を評価・批評するものではありません。
海外機関投資家との対話において一般に生じやすい構造的論点を整理したものです。

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