結論
事業ポートフォリオ問題は、CEOによる将来の戦略論ではなく、CFOが「今」動くべき問題である。
なぜなら、事業ポートフォリオとは、事業の集合体ではなく 資本配分の集積 であり、その説明責任は最終的にCFOが引き取るからである。
PBR、ROEが低迷した状態で、取締役会でも十分に構造的要因の説明がなされず、 様子見状態が続くと、アクティビストを引きつけ、その説明責任を追及される。
CFOは「まだ様子を見る」「いずれ整理する」という選択肢は、成立しなくなる。
同時に、取締役会で“説明不能”状態が続くと、いずれは放置を許容したCEO案件として扱われる。
1. 事業ポートフォリオは「事業の話」ではない
事業ポートフォリオは、しばしば次の言葉で語られる。
- 成長戦略
- 選択と集中
- シナジー
- 長期的視点
しかし市場と株主が見ているのは、別のものだ。
- どの事業に、いくらの資本が置かれているのか
- その資本は、資本コストを上回るリターンを生んでいるのか
- 上回っていない場合、なぜ許容されているのか
これは戦略ではない。
資本配分という、極めて具体的な経営判断の結果である。
2. CFOが「動かなくてよい」と思ってしまう典型的な誤解
多くのCFOは、次のように考えがちである。
- 事業戦略はCEOの領域
- ポートフォリオ判断は経営全体の問題
- CFOは数値を整え、説明を補助すればよい
しかし、この認識はすでに現実とズレている。
市場が問うのは、
戦略の正しさではなく、その戦略が生む資本効率を説明できているかである。
その説明の矢面に立つのは、
CEOではなく、CFOである。
3. 「数字はあるが、説明できない」状態は危険である
事業別PLはある。
ROICも計算できる。
ポートフォリオ資料も存在する。
それでも、次の問いに即答できない場合、
CFOはすでにリスクの中にいる。
- なぜ、この事業に資本を配分し続けているのか
- なぜ、この収益性を許容しているのか
- どの条件が整えば、見直すのか
これらに答えられない状態は、
- 株主との対話
- アクティビスト対応
- 取締役会での議論
のいずれかで、必ず露呈する。
4. 社内での整理で止まるCFOほど、後から対応できなくなる
多くのCFOは、問題意識を持つとまず社内整理に動く。
- 事業別ROICの再計算
- 投下資本の定義見直し
- KPIの調整
これは必要な初動である。しかし、ここで止まると、次の壁にぶつかる。
「社内では通じるが、第三者には弱い」
説明は、知らぬ間に社内論理・前提に依存した循環論法になり、この時点で、CFOは以下のような疑念を抱き始める。
これは社内整理の問題ではない。
説明構造そのものの問題である。
5. 「動かない」という選択肢が消える瞬間
この状態で何もしなければ、
CFOは次のリスクを自ら引き受けることになる。
- 説明不能なままPBR低迷を放置した責任
- 不十分な反論で株主支持を失う責任
- 取締役会で判断を支えきれなかった責任
ここで初めて明確になる。
問題の所在は「会社」ではない。
説明責任を引き取る立場にある「自分」である。
この認識に至った時点で、
CFOに「動かない」という選択肢は残らない。
6. CFOが動かなければならない理由
CFOが動くべき理由は、単純である。
| 市場環境が悪化したからではない |
| アクティビストが来たからでもない |
| 説明不能な資本配分が、すでに可視化され始めているからである。 |
この状態を放置すれば、
- PBRは改善しない
- 資本政策の自由度は失われる
- 提案を拒否する合理性も失われる
動くかどうかではない。
どのタイミングで、どの深さまで動くかの問題である。
まとめ
事業ポートフォリオは、「いつか整理すべき戦略課題」ではない。
それは、
CFOが、いま目前に迫っている説明責任そのもの
である。
- なぜこの資本配分なのか
- なぜ今は変えないのか
- どこまでなら正当化できるのか
これを説明できない限り、CFOは次の局面で、必ず厳しい状態に追い詰められる。
だからこそ、先手を打って、今動かなければならない。
注記(免責)
本稿は、特定の企業・事業・経営判断を評価・批判するものではありません。
資本市場と経営、そしてCFOのあいだで生じやすい構造的論点を整理したものです。